家族信託は新たな仕組みであるため、インターネット上では、誤解を招く内容が散見されます。また、十分な知識と経験のなくサービス提供されている事業者も少なくないように思います。
本記事では、家族信託のご利用に当たっての注意点を幾つかご紹介致します。
家族信託を利用を決める前に知っておきたい注意点
家族信託そのものが節税対策になるものではない
信託契約を行うと、委託者から受託者へ財産の名義が変わります。財産の名義が変わる場合、贈与税や譲渡所得税、不動産取得税などの課税の問題がありますが、信託契約に基づく名義の変更では、当初の受益者を委託者としておく限り、こうした課税はされません。
信託財産に対する実質的な権利者はあくまで受益者にあり、受託者は財産の管理等をしているに過ぎないためです。(不動産の登記手続きに伴う登録免許税は課されます。)

ここで注意が必要なのが、信託契約そのものが節税になるものではないという事です。上記は、実質的権利(受益権=受益者の地位)が移動していないから課税されていないのであって、これが移れば信託前の状態での権利変動と同様に課税されます。ただ、登録免許税については、多額の不動産を有するご家庭であれば、節税となるケースもあり得ます。これは、相続登記の登録免許税が、固定資産税評価額の0.4%であるのに対し、受益者変更※の登録免許税は、不動産の個数に1,000円を乗じた金額であることから生じます。
※受益者を、Aさんが死亡したらBさん、Bさんが死亡したらCさんといったように、受益者を連続するように信託契約を構築することが可能で、この場合において、受益者に変更があると、その登記が必要となります。
信託契約を利用した場合の課税関係について、信託組成時から終了までの間を見てみましょう。委託者Aさんを中心として、妻Bさん、子Cさんがいるご家庭で、受益権が、Aさん、Bさん、Cさんの順に変遷し、Cさんが受益権者となった時点で信託が終了したとすると、次の通りです。(評価とは、固定資産税評価額のことです。)

なお、家族信託の内容によっては、小規模宅地特例をフル活用することが出来なくなることもあり得るため、直接的に相続税対策にならないことだけでなく、内容にも注意が必要であることに留意する必要があります。
家族信託は、税対策に全く寄与しないわけではない
家族信託そのものが直接的に何らかの節税になるようなことは、登録免許税を除き考えにくいのですが、家族信託をしておくことで、認知症後も受託者によって財産の積極活用が可能となるため、資産の組換えを行う等、税対策を念頭にいれた財産運用を継続し続けることは可能です。
税対策を継続し続けることが可能といった意味では、税対策に寄与しないわけではないということです。
家族信託をしても、認知症になると結局借入出来ない可能性
賃貸オーナーや不動産投資を行う資産家の家族信託では、認知症後も借入が可能なように信託を組成することが多いと想定されますが、家族信託を行っても、認知症になれば結局借入が出来ない可能性があることを知っておく必要があります。
賃貸オーナーであれば、大地震が起きる起きると言われている今、大規模修繕や建替えに備えておく必要があるでしょう。不動産投資家であれば、良質な物件を得る機会があれば、そのタイミングを確保する必要があるでしょう。こうした際に、借入を利用するがあるかと思います。家族信託は、前者であれば賃貸経営の維持、後者であれば、財産の積極活用の継続が一つの目的として使われるのですが、借入が出来ないとなると、家族信託を利用する意味が薄れてしまうケースもあるかと思います。
この問題は、一部金融機関の家族信託に対する取り扱いによります。家族信託に対応していることで広く専門家に認知されている、ある金融機関では、信託組成後、いざ信託内借入をしたいといった時点で、委託者と面談し、判断能力を確認するといった運用をしています(2022年3月時点)。これでは、将来の借入を見越した家族信託の場合、目的を達成する事が出来ません。
では、他の金融機関で信託口座開設をすれば良いということになるかと思いますが、信託口座の開設を行っている金融機関自体がある程度限定されており、その中でも、指定事業者を介さなければ口座開設を認めないといった金融機関があります。つまり、ある専門家に家族信託の組成を依頼したけれども、その金融機関にて信託口座を開設するには、指定事業者への手数料を別途支払う必要が生じてしまうこととなります。
家族信託を利用すれば安心と思い、専門家に任せたけれども、実は、想定していたことは出来なかったという事態があり得るので注意が必要です。
信託先生であれば、信託内借入も可能な信託口座開設が可能
ここ弊社商品のPRをするのも如何なものかと思うところもありますが、信託先生であれば、信託内借入時の委託者判断能力確認は不要で、信託内借入が可能な金融機関での信託口座開設が可能です。こちらは、そもそも口座開設自体が、弊社含む特定の事業者しか行えない金融機関ですので、信託先生をご利用頂く強力なメリットと言えます。
小まとめ
少々分かりにくいところもあったように思いましたので、こちらの章の内容をまとめておきます。
- 金融機関によっては、信託内借入時に、委託者の判断能力があることを求める
- 信託口座が開設可能な金融機関は限られている
- 信託口座の開設が可能な金融機関でも、指定事業者を介さなければ口座開設が出来ない場合がある
- 信託先生であれば、家族信託を組みさえすれば、信託内借入が可能となる金融機関にて、信託口座の開設が可能である。
裁判所関与がない
信託制度は後見制度とある種類似したところがありますが、明確な違いの一つとして、監督者である裁判所や後見監督人が原則いない点が挙げられます。
後見制度において、裁判所や後見監督人の存在は、後見人による使い込み等を抑止する役割がありますが、信託制度では、原則監督者がいません。監督者がいる後見制度ですら、使い込み・横領は少なくない数が存在します。信託では、こうした側面も考慮し、信託監督人を就けるといった対応が極めて重要でしょう。
信託先生では、信託監督人としての弊社事後支援サービスを推奨しています。
家族信託は新たな仕組みであり、不安定な側面がある
改正信託法は、平成19年より施工されたもので、歴史がまだまだ浅いものです。専門実務家や学者が研究・実践を進めていますが、不確定な要素があることを否定することは出来ません。ある専門家はこう言っているが、他方の専門家の意見は異なるといった事項が少なくないのが現状です。信託契約は、契約して終わりではなく、むしろ契約は始まりに過ぎません。10年20年、それ以上続くことがあるものですから、判例構築、法改正、税法改正、通達等、様々な影響に対応し続ける必要があります。常に最新の情報を得て、自身の契約書と運用に落とし込み、反映させる作業が重要であることを知っておきましょう。