家族信託の概要
家族信託とは、法律用語ではなく、「信託法に基づく信託契約等」の意味で使われる通称です。司法書士等専門家の中には、民事信託などと呼ぶ人もいますが、こちらもまた通称で、意味内容としては、家族信託と同様のものとして使用されています。弊社では、「信託法に基づく信託契約等」を、言葉として一般認知の広がりがある「家族信託」と呼称します。
信託銀行等の信託とは違う
「信託」というと、信託銀行等の信託をイメージされる方がいらっしゃるのですが、家族信託とは異なります。信託銀行等の信託とは、信託銀行等がお客様の資産を預かり、管理・運用等をしていくものですが、家族信託は、家族が資産を預かり、管理・運用等をしていくことが出来る仕組みです。イメージとしては、信託銀行等の役割を、家族が担う事の出来る仕組みといったところでしょうか。
家族が財産の管理等をしていくことが出来るのが家族信託ですので、信託銀行等の信託と異なり、年間手数料が掛かりません。(契約の中で、「手数料」が掛かるようにすることは出来ますが。)「信託」と聞くと、毎年高額な手数料を取られて良い事がないといったイメージをお持ちの方もいらっしゃるのですが、「家族信託」は、家族が信託銀行等の役割を担う以上、そうした手数料が掛かるものではないという事を知って頂ければと思います。
信託法の改正により可能となった新たな仕組み
家族信託は、平成19年に改正施工された信託法に基づくもので、それまでは、信託銀行や信託会社といった、特別な許可を得た組織のみが、信託契約に基づいて他人の財産の管理等を出来たのですが、この改正によって、事業として行わない限りは、特別な許可なしに、信託法に基づく契約等によって他人の財産の管理を行うことが出来るようになったのです。
家族信託の仕組み
家族信託は、財産の管理や活用を任せる人と、これを任せる相手の契約により成り立ちます。(契約以外の方法でも成立しますが、ここでは割愛します)前者を委託者、後者を受託者と呼び、この契約では、「何の目的で、誰のために、どの財産をどれだけ、どのように管理し、いつまで行い、終了したらその財産をどうするか」といったことを決めます。これにより、自身の決めた相手が、自身が決めたルールに従って財産を管理し、自身が亡くなったあとは、自身の決めた人に財産を承継することができます。

委託者、受託者、受益者
家族信託には、3種の主要地位があり、それぞれ、委託者、受託者、受益者と呼びます。一つ一つご説明致します。
委託者とは
委託者とは、財産の管理等を任せる人のことです。信託契約の当事者であり、信託契約によって、任意の財産を信託財産として受託者名義へ移すこととなります。
受託者とは
受託者とは、財産の管理等を行う人のことです。信託契約の当事者であり、契約で定めたルールに従って、信託財産を管理等します。家族であっても、あくまで他人の財産を管理等する立場ですので、会計帳簿を作る等、適切な業務を行う必要があります。なお、受託者には、お子様や甥姪様がなられるケースがほとんどですが、未成年者等でない限り、受託者に制限はありません。
受益者とは
受益者とは、受託者の財産管理等によって利益を受ける人のことです。信託契約では、「誰のために」を定めると先に説明致しましたが、この「誰」が受益者であり、信託財産の実質的権利者です。受託者は、受益者のために財産管理等を行います。 信託の特徴として、この受益者の変遷を決めることが出来る点が挙げられます。例えば、当初は委託者Aさんを受益者として、Aさんが亡くなったら、妻のBさんが受益者となるといった形が典型です。これにより、委託者Aさんは、自身だけでなく、自身の亡き後の奥様のことも守ることが出来ます。

信託すると財産名義が変わる
家族信託契約をすると、契約の中で信託すると決めた財産については、受託者の名義となります。例えば、不動産の名義は受託者に変更されます。ただ、この名義は少し特殊で、ただ受託者で登記されるのではなく、信託財産である旨が明示されます。これにより、第三者は、受託者個人のものではなく、信託財産であることが分かるようになっています。このことは、金銭を預託する銀行口座についても同様です。受託者は、自分の名義となっても、自分のために信託財産を使用することは出来ず、信託契約で定めたルールに従って、受益者のためにのみ使用することが出来ます。
信託契約後の登記簿イメージ

委託者を信託太郎さん、受託者を信託受け太郎さんとした場合、上記のようになります。受託者である信託受け太郎さんへ所有権が移転していますが、その中には、信託と文言が明記され、信託目録番号が記載されます。登記簿には、信託目録も登記され、信託目録には、委託者や受託者等の情報を始めとした、信託契約の要約が記載されることとなります。
登記簿謄本は、一般に公開されており、誰でも閲覧することが可能です。信託目録が記載される以上、その内容も公開されることとなります。そのため、信託登記手続きの際には、法定されている事項を除き、登記公示機能を利用することが必要・有用な最低限の情報のみが登記されるよう工夫することも大切です。
信託口座のイメージ

上記は信託口座の通帳イメージです。信託財産とする金銭の管理は、受託者の善管注意義務を果たす意味で、信託口座という少し特殊な口座で行うこととなります。金融機関によって口座名称は異なりますが、受託者個人の財産ではなく、信託財産であることが明示されるようになっています。
名義が変わっても、贈与税や譲渡所得税は掛からない
財産の名義が変わる場合、贈与税や譲渡所得税、不動産取得税などの課税の問題がありますが、信託契約に基づく名義の変更では、当初の受益者を委託者としておく限り、こうした課税はされません。
信託財産に対する実質的な権利者はあくまで受益者にあり、受託者は財産の管理等をしているに過ぎないためです。なお、不動産の名義変更に伴う、登録免許税はこうした課税とは性質が異なりますので、信託に基づく変更でも収める必要があります。

まとめ
家族信託の概要と仕組みについてご説明させて頂きました。最後に、簡単なまとめを記載しておきます。
- 家族信託は、信託銀行等の信託とは違い、家族の間で行えるもの
- 「何の目的で、誰のために、どの財産をどれだけ、どのように管理し、いつまで行い、終了したらその財産をどうするか」といったことを、家族で決めることが出来る柔軟な仕組み
- 家族信託を行うと、財産名義が変わるけど、実質的な利益を受けることが出来る人は変わらない。
- 家族信託に伴う財産名義の変更をしても、譲渡所得税、不動産取得税、贈与税などのいわゆる流通税は、委託者が受益者となっていれば掛からない。
一言で言うとすれば、家族信託は、信頼できる人に、自分の意向に従った財産の管理等を託すことが出来る仕組みで、相続のことまで決めることが出来るものといったところでしょうか。