認知症に伴う財産凍結対策としては、従来から任意後見という仕組みがあり、また、事後措置としての法定後見という仕組みもあります。そのような中で、平成19年の信託法改正により、家族信託という仕組みが可能となり、テレビや雑誌に取り上げられ、その利用者は増加し続けています。
こちらの記事では、家族信託をご利用される前提として、成年後見制度についてお知り頂きたいという考えから、その概要のご説明をさせて頂きます。
後見制度とは
成年後見制度とは、判断能力が低下することによって、自らが、財産の管理や生活する上での様々な契約等を行っていくことが難しくなってしまった人を保護するための制度です。成年後見制度は、大分類すると、法定後見と任意後見に分かれます。それぞれ分けてご説明致します。
法定後見とは
法定後見制度とは、判断能力が既に低下してしまい、生活に支障が生じてしまっている人向けのもので、事後措置と言えるものです。いずれも、家庭裁判所に対する申立てにより利用可能となる制度である点では同じです。
法定後見は、主に本人保護の必要性の度合い、つまりは判断能力の低下度合から3種に分かれ、判断能力の低下度が重い順に、それぞれ、後見、保佐、補助と言います。このうち、保佐と補助はほとんど使われていないのが実態です。考えられるのは、重大な権利変動が生じる法理行為を行う際に、その法律行為の有効性を、相応の判断能力がなかったことを理由に後日紛争が生じる強い可能性が予見される場合のような、特殊な事案に限られるように思います。
ですので、本記事では、保佐と補助制度のご説明は割愛致します。「後見」についてみていきましょう。
後見人制度とは
ここで言う後見人制度が、一般に言われるところの後見で、判断能力を欠いてしまっていることが常態化している方向けのものです。
後見人は、本人の代理人として、財産を管理し、契約等を行い、また、本人の行った法律行為を取り消したりすることが出来ます。家族信託の利用を考える上で、ここで言う後見人制度について知っておくことが大切ですので、少し詳しくご説明致します。なお、以下、「後見制度」と言ったら、任意後見や保佐等含む意味、「後見人制度」と言ったら、一般に言うところの後見とご理解下さい。
後見人制度の4つの注意点
誰が後見人なるかは家庭裁判所が決め、後見監督人を就けることもある
後見人制度の利用は、家庭裁判所に対する申立てにより行い、後見人の候補者を指定することは出来るものの、最終的に、誰が後見人となるかは家庭裁判所が判断します。
また、後見人に弁護士や司法書士といった専門家ではない、家族が就くような場合には、後見監督人という人を家庭裁判所が選任することがあります。
専門家後見人と後見監督人の費用
弁護士や司法書士といった専門家が後見人となった場合、当然費用が生じます。
裁判所ホームページの記載によると、後見人の報酬が、月額2万円~月額6万円の範囲で、後見人が管理する財産の額により変動します。後見監督人の報酬は、月額1万円~月額3万円で、管理対象財産額により変動します。また、後見人と後見監督人のいずれも、付加報酬といって、特別の負担が生じた場合には別途報酬が生じます。
https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/2021nendo/kasai_koken/4_R40201_housyunomeyasu.pdf

後見人制度の利用は辞められない
後見人制度は、一度利用を開始すると、途中で辞めることが事実上出来ません。制度上、後見の原因が消滅すれば、家庭裁判所が後見開始の審判を取り消す決定をすることにより、利用を辞めること自体は可能になっているのですが、後見人が就くということは、重度の認知症等で判断能力を欠いているのが通常の状態ということであり、これが回復することは考えにくいことから、事実上、中途終了させることは出来ないでしょう。よくあるお悩みとして、遺産分割協議のためだけに後見人を就けたいという方がいらっしゃるのですが、そうしたことは出来ず、一生続けるものとご理解下さい。
後見人をやり遂げられるかの確認
家族が後見人となれば、後見監督人が選任される場合にはその報酬が生じるものの、後見人報酬はなしとすることが出来ます。金銭負担は減らせますが、後見人には様々な事務・連絡負担が生じますので、後見人となられる方が現役で働いていらっしゃるような場合には、やり遂げることが出来るかの視点で検討が必要でしょう。裁判所のHP上に、後見人に選任された方向けの案内ページがございますので、こちらでダウンロード可能なPDFファイルの冊子や作成が必要な各種書類の雛形をご参照頂けると、行う必要のある業務が見えてくるでしょう。後見人に就任してから、思ったより大変だったので辞めたい、業務が適当になってしまうといったことが通用するものではないので、事前にしっかり確認しましょう。
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/koukennin_sennin/index.html
任意後見制度
任意後見制度とは、判断能力がある元気なうちに、将来認知症等判断能力が低下した場合の自身の面倒を看てもらうための契約です。面倒を看てもらうといっても、どのようなことをしてもらうかは、任意後見契約の中で定めることとなります。自身の決めた相手(任意後見受任者と言います)との公正証書による契約によって成立しますが、元気なうちには効力は生じません。自身の判断能力が低下したときに、任意後見受任者が家庭裁判所に対して申立てを行い、家庭裁判所が任意後見監督人という人を選任し、これが就任することで、はじめて効力が生じることとなり、任意後見受任者は任意後見人となります。なお、任意後見人(任意後見受任者)は、家族でも、弁護士や司法書士といった専門家でもなることが出来ます。
任意後見監督人の報酬目安と専門家が任意後見人となる場合の報酬目安
任意後見監督人の報酬目安は、先に記載致しました後見監督人の報酬目安と同様で、月額12万円~36万円+臨時報酬となります。なお、弁護士や司法書士といった専門家を任意後見人とする場合の報酬は目安としては、こちらにつきましても、先に記載致しました後見人の報酬目安と同様で、月額36万円~84万円+臨時報酬とお考え頂いて差し支えないでしょう。(任意後見人の報酬は、任意後見契約の中で定めるため、個々の専門家により異なります。)
任意後見人の業務内容
任意後見人の業務内容(代理権)は、任意後見契約の中で定めるのですが、実務的には定型化されていて、法定後見人と同等に全権代理権とすることが多いようです。財産管理と身上監護(生活を維持するための業務。療養看護に関する契約等代理)で権限を分け、前者を専門家後者をご家族といった形で分ける事例は聞き及ぶところですが、例えば、不動産の売却のみの代理権を与えるような、極めて限定的な形は、経験上も他の専門家の事例としても聞いたことがありません。繰り返しになりますが、任意後見人の業務内容は、契約で定める以上、理屈の上で可能と考えられますが、不動産の売却のみの任意後見契約であれば、不動産の売却が完了した時点で契約は終了することとなり、その後の本人保護がないこととなり、後見制度のそもそもの趣旨に反するようにも思えます。この場合で、法定後見を利用するのであれば、はじめからその対応にすれば良いでしょう。
明確な答えを持ち合わせていない事柄に触れましたが、お伝えしたいことは、任意後見人となる人の業務内容は契約によって定めるものですが、実際の運用として、基本的には、本人保護のために全権を持たせるものということです。
まとめと補足情報
後見人制度と任意後見人制度について、次のことをお分かり頂ければ宜しいかと思います。なお、先に記載した内容外の情報も少し加えています。
- 後見人制度は、後見人なる人を家庭裁判所が決めるが、任意後見制度は自分で決めることが出来る
- 後見人制度は、家族が後見人となる場合には、監督人が就く可能性がある。任意後見制度では、誰が任意後見人になる場合でも、絶対に監督人が就く。
- 後見人制度も任意後見人制度も、家族が(任意)後見人となる場合の事務等負担レベルは同じと考えて良い
- 後見人制度は、判断能力がなくなってしまってから行う事後措置。任意後見人制度は、判断能力に問題のないうちに行う事前の備え。
- 専門家後見人、後見監督人、専門家任意後見人、任意後見監督人は、月額数万+臨時の報酬が掛かる。